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ATELIER

「 あちらこちら 」

Jun 15, 2020

午前10時、梅雨真っ只中の、束の間の晴れ。
夢のしっぽを振りながらふわふわとお散歩。

目が覚めたばかり、こちらへ来て間もない身体にはまだしっかりと夢の残り香が漂っていて、しばらく目を瞑っていれば、またすぐに先ほどまで見ていた夢の場所へとワープできるようだった。

数日見続けている悪夢は、身体的苦痛から精神的にくるものまでたいへんにバラエティに富んでおり、もうしばらくすればホラー映画の脚本が書けるのではないかと錯覚してしまうほど。

実際に体験してしまえば身体が幾つあっても足りないようなことが、夢の中では軽々とできてしまうのだから、ここぞとばかりに迎えに行っているのかもしれない。

眠りにつくとき、枕の下に手を入れ、今夜の切符を受け取る。
行き先は書かれていない。

眠る前に汗をたくさんかくとか、ストレッチを念入りにしてみたり、おなかいっぱい食べてみるとか、逆に食べないとか、喉が枯れるまでうたうとか、鬼のようにギターを練習するとか、寝酒を試したりなど、あれこれ実験はしてみているものの、一向に悪夢は治らない。それどころか、日に日に壮大になっているような気もして、短編が幾つかだったのが、ハードな長編作一本みたいな日もある。

こちらの世界では眠っていることになっているが、あちらの世界にも眠りはあるのだろうか。だとしたら今はまさに、眠っているということ? でも、こうしている間も意識を少し落とせばあちらにすぐ繋がってしまうのだから、眠る、というのはこちらの世界だけのことなのかもしれない。

あちらとこちらへ身体を貸し借りする日々。
いつしか「これは夢の中だ」なんて、明晰夢が追いついてしまうまで、ひと口ひと口スリルを味わっていようと思う。