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ATELIER

「 仄星海岸 」

Sep 3, 2020

私たちは残酷なほど忘れてしまう。
世界全てが沈んでしまうほど見つめ合っても、その時の体温はその時限りなのだ。

大きな丸い石がごろごろと波間にひしめいている。
次第に石の隙間へと吸い寄せられて行き、気が付けば私の身体は石の間に流れ込む波に砕かれ、仄かに光を弾くだけの砂となっていた。
人が来る。島草履を突っ掛けた、海を睨む若者と、もう一人、隕石を腹の中に閉じ込めている子どもだ。

わたしは波に押され彼らの近くへ寄った。
島草履へのぼり、土踏まずの下へ潜り込んで、もう殆ど思い出せないでいた人の体温を感じていた。
つきたての餅のような柔らかい腹の中の隕石の声を聴こうと、子どものヘソにも潜り込んだ。

晩、若者と子どもは目合っていた。
限りある皮膚の中にいくつもの記憶を蓄えて、今にも破けそうに、外界との境界線では泣きながら、互いを求める度に、まるで孤独を深めるような行為にも感じられた。

わたしは若者と子どもの身体を行ったり来たりしていた。交互に滑る皮膚の上で、若者と子どものルーツが螺旋を描いている。その螺旋の渦に飛び込んで目を閉じた。

わたしは海岸に居た。
耳の中に海水が流れ込んでいる。
見覚えのある、ごろごろとした石があたりにひしめいている。
子どもは腹に閉じ込めていた隕石を吐き、両手に包み、空の表情で波打ち際に立っている。
若者は吐かれた隕石を覗いていた。

子どもと若者が隕石を遠くへ投げると、わたしの頭上で鈍い音が水を弾いた。

石たちはそれぞれのようでいて、互いを呼び寄せあって一つの集合体となっている。
波は潮汐の呼吸をしながら、石たちが乾かないように沐浴させていた。